片麻痺の寝返りは「倒すだけ」じゃない?身体の連動から紐解く介助のヒント

片麻痺患者さんの寝返り訓練をしている院長田上

「以前は自分で横を向けていたのに、最近は難しくなってきた」

「身体を横に向けようとしても、途中で止まってしまう」

「家族が身体を動かさないと、寝返りができない」

こうした悩みを抱えるご本人やご家族もいらっしゃるのではないでしょうか。

脳梗塞の後遺症によって片麻痺が残ると、ベッドの上で寝返りをすることが難しくなる場合があります。

寝返りは、一見すると、身体を横に回転させるだけの単純な動作に思えるかもしれません。

しかし実際には、頭を向ける、腕を伸ばす、体幹を回す、膝を曲げるなど、さまざまな動きが関わっています。

私は、訪問鍼灸マッサージの現場で、寝返りが難しい方を担当するとき、「寝返りができるか、できないか」だけではなく、「どの動作ができて、どこで止まっているのか」を確認するようにしています。

今回は、脳梗塞後遺症による片麻痺がある方の寝返り動作について、実際の施術経験を交えながらお話しします。

目次

1.寝返りは「身体を倒すだけ」じゃない|全身の連動から紐解くメカニズム

片麻痺患者さんの寝返りイラスト

寝返りには、頭部、肩甲帯、体幹、骨盤、下肢など、身体のさまざまな部分が関わっています。

例えば、仰向けから横向きになる際には、次のような動きが組み合わさることがあります。

①寝返りたい方向へ頭を向ける
②腕を反対側へ伸ばす
③体幹や骨盤を回旋させる
④膝を曲げたり、足でベッドを押したりする

これらの動きが連動することで、身体の向きを変えやすくなります。

ただし、寝返りの方法は一つではありません。

麻痺の程度や身体の状態によって、使える動きも異なります。

そのため、私は最初から決まった寝返りの方法を当てはめるのではなく、ひとつひとつの動作を確認することを大切にしています。

2.なぜ最初に「頭の動き」を見るのか?寝返りのスイッチを入れる2つのチェック

片麻痺患者さんの寝返り時の頭の動きのイラスト

寝返り動作を確認するとき、私がまず見るのは頭部の動きです。

具体的には、次の2つです。

①寝返りたい方向へ頭を向けられるか
②頭を枕から浮かせられるか

頭部の動きは、身体全体の向きを変えるきっかけになる重要な要素です。

例えば、寝返りたい方向へ頭を向けられても、頭を浮かせる動作は難しい方がいます。

反対に、頭を浮かせることはできても、左右どちらかへの回旋が制限されている場合もあります。

もちろん、頭を浮かせられなければ寝返りが絶対にできない、というわけではありません。

私が確認したいのは、「頭部の動きを寝返りにどの程度利用できるのか」ということです。

ここで得られた情報を、次の上肢や体幹の動作確認へとつなげていきます。

3.「手すりに手が届かない」のは腕のせい?肩甲骨と体幹に隠れた原因

片麻痺患者さんの寝返り時のリーチ動作のイラスト

頭部の動きを確認した後は、寝返りたい方向への「リーチ動作」を見ます。

リーチ動作とは、目的の場所に向かって腕を伸ばす動作のことです。

例えば、患側(麻痺側)へ寝返る場合には、健側(麻痺側じゃない方)の腕を患側方向へ伸ばし、ベッドの手すりを握る動作が考えられます。

ここで私が確認するのは、単純に腕が届くかどうかだけではありません。

①肩甲骨が前方へしっかり動いているか
②腕の動きに伴って、体幹も一緒に回旋しているか

こうした連動した動きも確認します。

なぜなら、リーチ動作が難しい原因は腕の筋力不足だけとは限らないからです。

肩甲帯や背中、体幹の緊張によって動きが制限され、腕を十分に伸ばしにくくなっている場合もあります。

実際の施術現場での取り組み

私が担当している片麻痺のある方で、健側の腕を患側方向へ伸ばし、ベッドの手すりを握ることが難しくなっていた方がいらっしゃいました。

肩甲帯や肩関節周囲の動きを確認し、前鋸筋・小円筋・大円筋周辺への手技や肩関節の可動域訓練、リーチ動作の練習を行いました。

練習の過程では、健側の腕で手すりを握る動作も確認できました。

ただし、寝返り全体を自力で行える状態には至っていません。

その後も、次のような動作を繰り返し練習しています。

①健側の腕を患側方向へ伸ばす
②手すりを握る
③手すりを引く
④施術者が身体の回転を補助する

このように、寝返りの途中までの動作を繰り返し練習しました。

寝返りが完全に自力でできなくても、

「寝返りを構成する動作のうち、どこまでできるようになったか」

をひとつひとつ確認し、達成感を共有することも大切だと考えています。

※上記は個別の施術場面で観察した経過であり、特定の施術による効果や、同様の結果を保証するものではありません。

4.下肢のポイントは「膝立て」|てこの原理とベッドを踏ん張る力を引き出す

片麻痺患者さんの寝返り時の膝立のイラスト

寝返りを考えるとき、上半身だけでなく下肢(足)の動きも欠かせません。

私が特に確認するのは、仰向けの状態で「膝を立てられるかどうか」です。

なぜ膝を立てることが重要なのでしょうか。

理由は2つあります。

①足の裏でベッドを押せる

膝を曲げて足の裏をベッドにつけることで、ベッドを押したときに得られる反力を、身体の回転に利用できる場合があります。

②身体を回転させるきっかけになる

膝を横へ倒す動きを利用して、骨盤や体幹を回旋させやすくなる場合があります。

もちろん、膝立てがすべての寝返りに必須というわけではありません。

ただ、私が普段担当する片麻痺のある方の中には、健側の膝は比較的スムーズに立てられても、患側は筋肉のこわばりや関節の動きの制限によって膝を立てることが難しい方がいらっしゃいます。

そこで私は、太ももの前側の筋肉の大腿四頭筋や、太ももの裏側の筋肉のハムストリングスなど、膝関節周囲の筋肉の状態を確認します。

必要に応じて手技を行い、膝関節を無理のない範囲で曲げ伸ばしする関節可動域訓練も取り入れます。

私の中では、「動きの渋くなった機械に少しずつ油を注ぎながら、スムーズな動きを確かめていく」ようなイメージです。

もちろん、これはあくまで例えです。

筋肉のこわばりや関節拘縮にはさまざまな要因があり、手技や関節可動域訓練だけで解消できるとは限りません。

大切なのは関節を動かすこと自体を目的にするのではなく、その先にある「膝立て」や「寝返り」の動作へつなげることです。

5.足が動かなくても諦めない|本人の意思を大切にする運動イメージ

片麻痺患者さんの寝返り時の膝立を補助している様子のイラスト

患側の下肢に麻痺がある場合、ご自身の力だけで膝を立てることが難しい方もいらっしゃいます。

そのようなとき、私はご本人に「両膝を曲げてみましょう」と声をかけることがあります。

健側の膝は曲がっても、患側の下肢がほとんど動かないことも珍しくありません。

それでも、声かけの内容を理解できる方には、頭の中で「両膝を曲げる動作」をイメージしていただきながら、必要に応じて患側の下肢を他動的に動かして介助します。

ここで私が大切にしているのは、「実際に動かせるかどうか」と「ご本人が動かそうとしているかどうか」を分けて考えることです。

実際に足が動かなくても、可能な範囲で「両膝を曲げる」という動作をイメージしていただくことを大切にしています。

運動イメージは脳卒中後のリハビリテーションでも研究されていますが、その効果には個人差があります。

私は、ご本人が動作に参加するための一つの工夫として取り入れています。

※なお、認知機能の状態などによって言葉による指示やイメージが伝わりにくい場合もあります。その方の理解度や反応に合わせ、声かけの方法や介助の手順を柔軟に調整することが大切です。

6.「健側」と「患側」どちらから回るべき?生活環境に合わせた選び方

片麻痺患者さんの患側と健側の寝返りのイラスト

片麻痺のある方の寝返りでは、「健側と患側のどちらへ寝返るか」も大事な検討ポイントです。

健側への寝返りは、麻痺していない側の手足を使って身体を動かしやすいため、比較的取り組みやすい方もいらっしゃいます。

まずは動きやすい方向で練習し、「自分で身体を横に向けられた」という成功体験を積むことも意欲向上につながる場合があります。

一方で、患側への寝返りでは、健側の腕を伸ばして手すりを握り、身体を回転させる動きを利用できる場合があります。

そのため、「必ず健側から」「必ず患側から」と決めつけるのではなく、私は可能な範囲で両方向の動きを確認し、練習を取り入れるようにしています。

左右どちらか一方だけに偏らず、それぞれの方向へ寝返るために必要な動きを確認したいからです。

また、実際の生活ではベッドの配置、手すりの位置、介助者が入るスペース、ポータブルトイレの置き場所など、生活環境が深く関わってきます。

「生活上どちらへ寝返ることが必要なのか」「どちらの方向なら安全に取り組めるのか」を、ご本人・ご家族・ケアマネジャーとすり合わせながら進めることが重要です。

なお、患側の肩に痛みや不安定性がある場合は、腕を無理に引っ張らず、身体を適切に支える必要があります。

7.画一的なリハビリはしない|その方の「今の身体と生活」に合わせた段階的ステップ

片麻痺患者さんの寝返りを補助している様子のイラスト

ここまで、寝返りを構成するさまざまな動作についてお話ししてきました。

しかし、同じ脳梗塞後遺症の片麻痺であっても、適した練習方法やアプローチは一人ひとり異なります。

私が訪問施術で特に意識しているのは、次のような要素です。

①身体機能や症状

麻痺の程度、筋肉のこわばり、関節の拘縮、痛み、体幹の安定性など

②認知機能

声かけの理解度、動作のイメージのしやすさ、受け入れやすいコミュニケーション

③年齢や体力

疲労度、持久力、その日の全身状態

④生活環境と目標

ベッド周りの環境、ご家族の介護負担、ご本人が目指したい生活

寝返りが難しいからといって、身体を横に倒す練習だけをがむしゃらに繰り返す必要はありません。

  • 頭を向ける
  • 腕を伸ばす
  • 手すりを握る
  • 膝を立てる
  • 骨盤を回旋させる

今できる動作を一つひとつ確認し、難しい部分に必要な支援を取り入れていく。

私は、そうした「小さな動作の積み重ね」を何よりも大切にしています。

おわりに|「できた・できない」の先にある、起き上がりへの第一歩

寝返りは、ベッド上での姿勢調整や体位変換に関わる大切な動作です。

長時間同じ姿勢で過ごすことによる皮膚への圧迫を軽減するためにも、適切な体位変換や皮膚状態の確認は重要です。

ただし、寝返りだけで褥瘡(床ずれ)を予防できるわけではありません。

また、寝返りは、「ベッドの端に足を下ろして起き上がる動作」へとつなげるための大切な第一歩でもあります。

片麻痺のある方にとって、ベッド上で身体の向きを変えることは大きなエネルギーを要する場合があります。

だからこそ、私は「寝返りができるか・できないか」という結果だけで判断したくありません。

  • どこまでご自身の力で動かせているのか
  • どの部分にサポートが必要なのか
  • 今できている小さな動きを、どう日々の生活動作へつなげられるか

そうした視点を持って、ひとりひとりの身体と向き合っていきたいと考えています。

寝返りが完全に自力でできなくても、手すりに手が届いたり、膝を曲げる動作に参加できたりすることには、その方にとって意味があると考えています。

すべてを一度にやろうとせず、その方にとって必要な動作を、安全に、少しずつ積み重ねていきましょう。


※本記事は訪問施術の現場での経験と一般的な動作の考え方を紹介するものであり、特定の施術による改善や効果を保証するものではありません。麻痺の程度や関節の状態によって適切な介助・運動方法は異なります。ご自宅での練習は、担当医やリハビリテーション専門職と相談のうえ、安全に配慮して行ってください。

※急に新たな麻痺や言葉の出にくさ、顔のゆがみなどが現れた場合は、脳卒中の可能性があるため、直ちに119番へ連絡してください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次