【ケアマネジャー向け在宅知見】退院後の片麻痺・拘縮予防|介護保険枠を使わない身体ケアと更衣介助の視点

院長田上が訪問で片麻痺の患者さんの施術をしている様子

太宰府市・筑紫野市・大野城市周辺では、誠愛病院などの回復期リハビリテーション病棟を退院し、住み慣れた自宅での生活へ移行されるご利用者様が多くいらっしゃいます。

病院という医療設備や専門職が揃った環境からご自宅へ戻られた際、ケアマネジャー様がプラン作成や定期モニタリングの中で直面しやすいのが、以下のような現実的な課題です。

・退院後に身体を動かす機会が減り、関節拘縮や手足のこわばりが進んできた
 
・デイサービスや訪問看護などの利用で区分支給限度基準額が上限に近づき、これ以上サービスを追加しにくい


・「毎朝のパジャマの着替えで麻痺側の腕が突っ張ってしまい、着せるだけでお互い疲れてしまう」というご家族からのご相談

私自身、訪問鍼灸マッサージの現場で片麻痺のある方に関わる中で、

「病院にいた頃より身体を動かす機会が減った」

「腕が固くなって、着替えを手伝うのが大変になってきた」

といったご本人・ご家族の声を耳にすることがあります。

病院では「身体機能」の問題として見えていたものが、自宅に戻ると「毎朝の着替え」「手のひらを清潔に保つ」「車椅子へ移る」といった、毎日の生活の問題として現れてきます。

だからこそ私は、単に関節が何度動くかだけではなく、

“その身体の変化が、実際の生活で何を困らせているのか”

まで見ることが大切だと考えています。

本稿では、訪問施術の臨床現場から見えてきた、「更衣動作が困難になる身体的な背景」「日々の介助負担を減らすための具体的な着眼点」、そして「介護保険の枠を使わずに身体ケアの機会を補う制度」についてまとめました。

日々のケアマネジメント業務や、ご家族への介護助言のヒントとしてご活用ください。

目次

なぜ退院後に「更衣動作」の介助負担が増えるのか?

片麻痺の高齢女性の着替えの介助をしている様子

片麻痺を抱えるご利用者様の在宅生活において、食事や排泄と並んで毎日発生するのが「更衣(着替え)」です。

特に「上着やパジャマの袖を通す・脱ぐ」といった何気ない動作でも、麻痺側の筋緊張や関節可動域の制限があると、ご本人だけでなく介助するご家族にとっても大きな負担になります。

在宅の現場では、次のような要因が重なることがあります。

急な牽引によって筋緊張が強くなる

服を着せようとして、介助者が麻痺側の手首や腕を持ち、急いで袖を通そうとすると、麻痺側の筋肉が急に引き伸ばされます。

痙縮のある方では、こうした急な伸張によって伸張反射が強く現れ、肘や手首などの筋緊張が高まることがあります。

「腕が伸びないから、もう少し引っ張ろう」

と力を加えるほど、かえって腕が動かしにくくなり、ご本人には痛みや恐怖が生じ、介助者にもさらに力が必要になる。

そんな悪循環につながることがあります。

手指・手関節・肘・肩など複数の関節が動かしにくくなる

退院後、ベッド上や椅子で過ごす時間が長くなり、麻痺側の腕を動かす機会が減ると、肩・肘・手首・手指などの関節が徐々に動かしにくくなることがあります。

肘が曲がったままになったり、手首や指が握り込むような姿勢になったりすると、袖を通すことだけでなく、手洗いや清拭、爪切り、手のひらを清潔に保つことまで難しくなります。

つまり、「関節が硬くなる」という身体機能上の問題が、そのまま毎日の介助負担につながっていきます。

自宅環境での不安や恐怖

病院のリハビリ室や設備の整った環境とは異なり、自宅ではベッド周囲のスペースが狭かったり、足元が不安定だったりすることもあります。

「転ぶかもしれない」


「身体を支えてもらえなかったら怖い」

そんな不安や恐怖によって身体に力が入り、介助時の動かしにくさにつながることもあります。

そのため、身体だけを見るのではなく、介助する場所や姿勢、ご本人が安心できているかどうかまで含めて考えることが重要です。

訪問現場における「拘縮予防と介助量軽減」の具体的アプローチ

片麻痺の女性の施術をしている院長田上

訪問鍼灸マッサージの施術の現場では、麻痺している手足を無理に動かすのではなく、その日の痛みや筋緊張、関節の状態などを確認しながら、できるだけ無理のない範囲で身体を動かしていきます。

目的は「麻痺を無理に治す」ことではありません。

今ある関節の動かせる範囲をできるだけ保ち、毎日の生活や介助につなげていくこと。

これが在宅で身体に関わるうえで大切な視点の一つです。

アプローチその1:温熱や軽擦を用いた身体を動かすための準備

身体に強いこわばりがある状態で、いきなり関節を大きく動かそうとはしません。

必要に応じてホットパックなどによる温熱や、皮膚・浅層への愛護的な軽擦(優しくさする刺激)などを用いながら、まずは身体を動かすための準備を行います。

大切なのは、決まった刺激を一律に行うことではなく、その日の痛みや筋緊張、体調を確認しながら刺激量を調整することです。

アプローチその2:痛みに配慮した他動的な関節運動

拘縮予防を考える際、「硬いから力いっぱい伸ばす」という考え方は適切ではありません。

痛みや強い抵抗が出ているにもかかわらず無理に動かせば、かえって身体に力が入り、介助そのものへの恐怖につながることもあります。

訪問現場では、肩甲帯から肩関節、肘、前腕、手関節、手指まで、その方の状態に合わせてゆっくりと他動的に動かしていきます。

関節の動かせる範囲をできるだけ保ち、更衣・清拭・手洗い・爪切りなどの日常介助が行いやすい状態を目指します。

アプローチその3:ご家族へ共有する「更衣介助のポジションと工夫」

訪問の現場で私が大切にしているのは、施術している時間”だけ”身体を整えて終わりにしないことです。

それは、ご本人の身体に私たちが触れる時間よりも、ご家族と過ごす時間の方が圧倒的に長いからです。

施術時に身体が動かしやすくなったとしても、毎朝の更衣介助で腕を強く引っ張ることが繰り返されれば、ご本人にもご家族にも負担がかかります。

だからこそ、施術者が関節を動かすだけでなく、ご家族が毎日の介助で腰を痛めたり消耗したりしないための工夫まで共有することが重要だと考えています。

例えば、

「脱健着患」を意識する
脱ぐときは麻痺のない健側から、着る時は麻痺のある患側から行うことで、麻痺側の腕を無理に引っ張る場面を減らします。

無理に腕を引っ張って袖を通さない
ご本人が安定した姿勢を取れるようにした上で、麻痺側の腕の位置や関節の動きを確認しながら、ゆっくり袖を通します。

手首だけを引っ張らない
腕全体を支えながら動かすことで、ご本人の痛みや不安に配慮した介助につなげます。

ほんの少し介助方法を変えるだけでも、ご本人とご家族双方の負担を減らせる場合があります。

ケアプラン作成時の制度的視点|介護保険とは別枠の「医療保険(療養費)」という選択肢

医療保険で救うイメージ写真

片麻痺のあるご利用者様を担当していると、

「もう少し身体を動かす機会がほしい」


「でも介護保険の区分支給限度基準額が上限に近い」

という場面もあるのではないでしょうか。

その際、条件に該当する方では、医療保険の療養費制度を利用した訪問マッサージが選択肢になる場合があります。

片麻痺・関節拘縮などは、状態に応じて療養費の対象となる場合があります

健康保険を利用したあん摩マッサージ指圧は、診断名だけで一律に決まるものではありません。

筋麻痺や関節拘縮などがあり、医療上マッサージを必要とする症例について、医師の同意など所定の要件を満たした場合に療養費の支給対象となります。

脳血管障害後の片麻痺についても、その状態や医療上の必要性に応じて対象となる場合があります。

また、ご自宅等への訪問鍼灸マッサージ施術についても、患者様の状態などに応じた所定の要件があります。

そのため、「片麻痺だから必ず保険が使える」というものではなく、個々の状態を確認したうえで制度利用の可否を判断する必要があります。

介護保険の区分支給限度基準額とは別枠

健康保険の療養費制度を利用する訪問マッサージは、介護保険サービスとは別の制度です。

そのため、介護保険の区分支給限度基準額を使用せずに身体ケアの機会を追加できる場合があります。

デイサービスや訪問看護、福祉用具など、在宅生活に必要な介護保険サービスを維持しながら、身体へのアプローチを組み合わせられることが大きな特徴です。

介護保険サービスとは「競合」ではなく「役割を分けて考える」

大切なのは、訪問マッサージを他のサービスの代わりとして考えるのではなく、それぞれの専門性や役割を整理して組み合わせることです。

例えば、

  • 通所リハ・通所介護(デイ)
    身体活動や社会参加、入浴、交流、ご家族のレスパイトなど
  • 訪問リハビリテーション
    理学療法士・作業療法士・言語聴覚士等による、生活場面に即した専門的なリハビリテーション
  • 訪問マッサージ
    筋麻痺や関節拘縮などがある方への身体ケアや関節運動など


といったように、それぞれの役割があります。

「デイサービスのない日の身体ケア」


「訪問リハビリと併用しながら、日常的な身体の状態を確認する」

など、ご本人の生活状況やケアプラン全体を見ながら組み合わせるという考え方です。

医師の同意に基づいて開始する制度

医療保険の療養費制度を利用して、あん摩マッサージ指圧を受ける場合には、医師の同意が必要です。

施術者だけの判断で健康保険を適用する仕組みではありません。

ご本人の状態を確認し、必要な手続きを行ったうえで開始します。

在宅ケアにおける「現実的なゴール設定」の重要性

ゴール設定

脳血管障害後の片麻痺に関わるうえで大切なのが、ご本人の現在の身体状態と生活に合わせたゴールを設定することです。

無責任に、

「元通りに動くようになります」


「麻痺が治ります」

といった期待を抱かせることは、ご本人やご家族にとってかえって負担になることがあります。

私は訪問の現場で、必ずしも大きな変化だけが「良くなった」ということではないと感じています。

たとえば、麻痺している手が元通りに動くようにならなくても、

「以前より袖を通しやすくなった」

「手のひらを清潔に保ちやすくなった」

「移乗するときの家族の負担が少し減った」

こうした変化も、在宅生活を続けるうえでは大きな意味があります。

ご本人だけを見るのではなく、その方を支えているご家族まで含めて「生活が少し楽になったか」を見る。

これは、私が訪問施術を続ける中で大切にしている視点です。

在宅現場では、

  • 今ある関節の動かせる範囲をできるだけ保つ
  • 着替えや清拭など、毎日の介助負担を減らす
  • 車椅子への移乗などをできるだけ安全に行える環境をつくる
  • 身体の状態を定期的に確認し、小さな変化を見逃さない
  • ご本人・ご家族が在宅生活を続けやすい状態を一緒に考える

といった、一見小さく見える目標も重要です。

「麻痺を治す・元通りにする」ことだけを目標にするのではなく、「今ある身体機能をできるだけ保ち、生活上の困りごとを減らす」という視点も持つ。

それが、在宅生活を長く支えていくうえで大切だと考えています。

おわりに|「身体の問題」を「生活の問題」として見る

高齢女性と娘さんの満面の笑顔

誠愛病院などの回復期リハビリテーション病棟を退院された後の在宅療養は、ご本人にとってもご家族にとっても、試行錯誤の連続です。

病院では「右上肢の拘縮」「片麻痺」「関節可動域」と表現されていた身体の問題が、自宅に戻った瞬間、

「朝、服を着せられない」

「手のひらを洗えない」

「車椅子へ移すのが怖い」

という生活の問題になります。

だからこそ、身体の状態だけを見るのではなく、

「この身体の状態によって、今、この人や家族は生活の何に困っているのか?」

という視点が重要だと考えています。

日々のプラン作成やモニタリングの中で、

  • 「退院してから身体を動かす機会が減り、手足が以前より動かしにくくなってきた」
  • 「介護保険の枠が上限に近く、これ以上サービスを追加しにくい」
  • 「毎朝の着替えや清拭で、ご家族の身体的な負担が大きくなっている」

といったご利用者様・ご家族がいらっしゃいましたら、介護保険とは別の制度を利用して身体ケアの機会を設けられる場合があることを、選択肢の一つとして知っていただければと思います。

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